約 3,520,675 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/259.html
重装鎧の修理 重装鎧は罰を多く受けるために設計されたに違いない。着用者を守りながらも、あらゆる武器の攻撃を直接受け止めることになる。この鎧は軽装鎧のようなたくさんの細かな部品より、少量の大きい部品をつなぎ合わせて作られることが多い。 鉄と鋼は扱いが簡単である。熱するだけで形を整えられるからだ。修繕する時は焚き火程度の火力でも間に合う。この時、金属以外のものを加えるのは避けるべきだ。同時に、金属は常に節約するように心がけ、修繕していかなければならない。 もし何度も鍛造しなければならない場合、その部品は壊れやすくなる。大掛かりな修繕が終わった後、鎧を何度も加熱しておけば、壊れやすくなるのを防ぐことができる。鍛造が終わったら、必ず油の中につけておくこと。鍛造されたばかりの表面はさびやすいので、予防する必要がある。 ドワーフ製やオーク製の鎧を扱う場合、ハンマーを小さいものと大きいものの2種類用意したほうがいい。オーク製の鎧を加熱するときは慎重に行うこと。両方とも、ハンマーで少ない回数、思い切り叩くのではなく、小さいハンマーでたくさん、こつこつと叩くのが良い。 黒檀の鎧は熱した時のみ鍛造する。冷えているときに鍛造すると、小さな裂け目ができてそこから粉々に壊れてしまう可能性がある。デイドラ製の鎧は夜間に扱うのがいい…… 理想を言えば満月の下で。日食の間は絶対に避ける。赤い収穫の月の夜が最高である。 兵法・戦術 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/73.html
バレンジア女王伝 第3巻 スターン・ガンボーグ帝都書記官 著 第2巻では、バレンジアが新たに建てられた帝都に温かく迎えられ、一年近くの間、まるでずっと行方の知れなかった娘のように、皇帝一家から愛されたところまでを紹介してきた。数ヶ月間、帝都領地の女王としての義務と責任を学んだあと、シムマチャス将軍が彼女を護衛してモーンホールドへ送り届けた。この地でバレンジアはシムマチャスの手引きを得て女王として国を治めた。そして彼らは少しずつお互いを愛するようになり、やがて結婚した。彼らの結婚と戴冠を祝う盛大な式では、皇帝自らが司祭として儀式を執り行った。 数百年の結婚生活を経て、息子ヘルセスが生まれ、祝賀と喜びの祈祷で迎えられた。後になってわかったことだが、このめでたい出来事の直前、モーンホールド鉱山の奥から混沌の杖が持ち去られていた。盗んだのは謎めいた吟遊詩人で、ナイチンゲールと呼ばれた男だった。 ヘルセスが生まれてから8年間、バレンジアは娘を生んだ。シムマチャスの母親の名をとってモルジアと名づけられた。夫婦は幸せに満ちていた。しかし、その直後、不可解な理由から帝都との関係が悪化し、モーンホールドに不穏な空気が漂い始めた。原因究明と関係修復の努力は無駄に終わり、バレンジアは子供たちとともに帝都へ行き、皇帝ユリエル・セプティム七世と直接話すことにした。シムマチャスはモーンホールドに残り、不満を訴える領民や不安がる貴族たちに対応し、反乱を食い止めることになった。 皇帝との謁見の際、バレンジアは魔力を使って皇帝の正体を見抜き、その瞬間、恐怖と困惑に襲われたのであった。なんとあの混沌の杖を盗んだナイチンゲールではないか! だが彼女はつとめて平静を装った。その夜、シムマチャスは農民の反乱に敗れ、モーンホールドは反逆者の手に落ちた。バレンジアは誰に助けを求めたらよいのか途方にくれてしまったのだった。 だが、まるで今までの不運を埋め合わせるように、天はその運命の晩、彼女に味方した。皇帝とシムマチャス両方の旧友であるハイ・ロックのイードワイヤー王が訪問してきたのであった。彼はバレンジアを慰め、友情と協力を誓い、彼女の言うとおり皇帝が偽者であると断言した。皇帝になりすましているのは帝都軍の魔闘士ジャガル・サルンであり、ナイチンゲールは彼が持つ様々な顔の一つであるという。ターンは隠居し、彼の任務は助手リア・シルメインが引き継いだと言われていたが、そのリアは後に謎の死をとげたのであった。どうやらなんらかの事件との関連が疑われ、処刑されたこになっていた。しかしリアの亡霊はイードワイヤーの夢に現れ、真の皇帝はターンに拉致され、別次元に監禁されていると告げたのだった。そのことを元老院に知らせようとした彼女は、ターンに混沌の杖で殺されたのである。 イードワイヤーとバレンジアはともに、偽皇帝の信頼を得るために画策した。そのころ、偉大な力を秘めたチャンピオンという名でしか知られていないリアのもうひとりの仲間が、帝都の地下牢に閉じ込められていた。リアは彼の夢に現れ、逃走の準備が整うまで待つように告げるのであった。こうして、彼は偽皇帝を倒す計画を練り始めたのだった。 バレンジアは引き続き偽皇帝に近づき信頼を得た。彼の日記を盗み読みし、混沌の杖を8等分にして、それぞれをタムリエル各地の遥か彼方に隠したことを知った。バレンジアはリアの仲間の牢獄の鍵を入手し、看守を買収し偶然を装って彼の手の届くところに置かせた。バレンジアとイードワイヤーにすら名前のわからないチャンピオンは、リアが衰えつつあった力で開けた辺ぴな通用門から脱獄することができた。ついにチャンピオンは自由の身になり、すぐさま偽皇帝の打倒にに立ち上がった。 数ヶ月かけて盗み聞いた会話と盗み見た日記から、バレンジアは混沌の杖8つのかけらを探し当て、リアを通じてチャンピオンにそれぞれの隠し場所を伝えた。そして、一寸たりとも時間を無駄にすることなく、計画を行動に移したのであった。まず、ハイ・ロックにあるイードワイヤーの祖先の領地ウェイレストへ向かった。そしてターンが送り込む手下たちを回避し、復しゅうを図ることに成功した。ターンは、(バレンジアからは見透かされていたかもしれないが)、決して愚か者ではなく、非常に狡猾な男であった。彼は考えうるだけの策を弄してチャンピオンを突き止めて消そうとしたことは確かであった。 今日では周知のとおりだが、あの勇敢で不屈の精神を持つ名もないチャンピオンは、混沌の杖のかけらを全て集めることに成功し、混沌の杖によってターンを倒し、真の皇帝ユリエル・セプティム七世を救い出した。そして王政復古の後に、セプティム王朝を長年統制してきたシムマチャスを称える記念式典が帝都で行われたのである。 バレンジアとイードワイヤー王はともに苦難と危険を乗り越える中で互いに惹かれあい、帝都からそれぞれの領地へと帰ったその年に結婚した。バレンジアと前夫との間に生まれた2人の子供も、彼女とともにウェイレストへゆき、彼女の留守中はモーンホールドによって摂政が代理で統治することとなったのである。 今も、バレンジア女王はヘルセス王子とモルジア姫とともにウェイレストに暮らしている。イードワイヤーが他界すれば、またモーンホールドへ戻るだろう。 結婚したとき、イードワイヤーはすでに老いていた。従って、エルフと違って残念ながら世を去る日はそう遠くないとされている。しかし、それまでは、イードワイヤーとともにウェイレストを治め、やっと手に入れた平穏で幸せな生活をバレンジアは送ることとなるだろう。 歴史・伝記 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/151.html
帝都の略歴 第4巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻では、初代皇帝タイバーから第8代皇帝の時代までの歴史を概観した。第2巻では、レッド・ダイヤモンド戦争以降の6代の皇帝について論じた。第3巻では、続く3代の皇帝の受難、すなわちユリエル四世の失意、セフォラス二世の非力、そしてユリエル五世の英雄的な悲劇について語った。 ユリエル五世が遠く海を隔てた敵国アカヴィルで命を落とした時、皇位継承者のユリエル六世はまだ5歳であった。実際、彼が生まれたのは父であるユリエル五世がアカヴィルへ旅立つ直前のことであった。ユリエル五世の他の子は、平民との間にできた双子で、彼が旅立った直後に生まれたモリハーサとエロイザしかいなかった。そのため、第三紀290年にユリエル六世は即位したが、彼が成年に達するまでのあいだは、ユリエル五世の后でユリエル六世の母親であるソニカが摂政として限られた権限を持ち、実権はカタリア一世の世から変わらず元老院が握ることになった。 元老院は勝手な法律を広めては利益を貪っていたため、なかなかユリエル六世には帝政にかかわる実権を渡さなかった。彼が正式に皇帝としての権利を認められたのは307年、彼が22歳の時である。それまでにも少しずつ皇帝としての責任ある立場を任されてはいたが、元老院も、そして限られた摂政権しか持たない彼の母親でさえ、その支配力を全て彼に譲るのを嫌がり、先延ばしにしたためである。彼が帝位につく頃には、帝政に関する皇帝の権限は拒否権を残してほとんどなくなっていた。 しかし、ユリエル六世はこの残された拒否権を積極的に行使した。そのせいもあって、313年までには彼は名実ともにタムリエルの支配者となった。彼はほとんど忘れられていたスパイ組織と衛兵隊を有効に利用し、元老院の中で反抗的な者を威圧したのである。異母妹のモリハーサは(意外なことではないが)彼の最も忠実な味方であり、彼女がウィンターホールドの男爵ウルフェと結婚し富と権力を得てからは、さらに頼りになる勢力となった。賢者ユガリッジの言葉を借りれば、「ユリエル五世はエスロニーを降伏させ、ユリエル六世は元老院を降伏させた」のである。 ユリエル六世が落馬し、帝都で最も優れた治癒師の尽力にも関わらず命を落としたため、彼の最愛の妹モリハーサが帝位を継承した。このとき25歳のモリハーサは、外交官たちから(立場上のお世辞もあったであろうが)タムリエル一の美しさであると称えられた。彼女は教養があり、快活で、運動神経と政治能力に恵まれていた。彼女はスカイリムから大賢者を帝都に招き、タイバー・セプティム以来二人目の帝都軍の魔闘士を持つ皇帝となった。 モリハーサは彼女の兄が始めた政策を引き継ぎ、帝都州の政治を真の意味で女皇の(そして後に続く皇帝たちの)支配下に置いた。しかしながら、帝都州の外においては、女皇の支配力は少しずつ弱まっていた。反乱や市民戦争が、女皇の祖父セフォラス二世の時代から有効な対策がとられないままに各地で激しさを増していた。モリハーサはやり過ぎない程度に注意深く反撃と鎮圧の指示を出し、反乱を起こした地域を少しずつ支配下に戻していった。 モリハーサの戦略は効果的ではあったが、慎重すぎたためにしばしば元老院の反感を買った。そんな一人、アルゴニアンのソリクレス・ロマスは、女皇がブラック・マーシュの自分の領地の危機に軍隊を派遣しなかったためひどく怒り、殺し屋を雇って彼女を第三紀339年に暗殺した。ロマスはすぐに捕らえられ裁判にかけられ、最後まで無罪を主張したが処刑された。 モリハーサに子供はなく、妹のエロイザは4年前に高熱で他界していた。そのため、エロイザの25歳になる息子、ペラギウスが皇帝ペラギウス四世として即位した。ペラギウス四世は彼の叔母の仕事を受け継ぎ、反乱を起こした王国や領地を少しずつ皇帝の支配下に取り戻していった。彼はモリハーサの冷静さと慎重さを受け継いだが、残念ながら彼の戦いは彼女のようにはうまくいかなかった。各地の王国は長い間皇帝の支配を離れていたため、その支配がどんなに寛大であろうとも皇帝の存在自体が疎まれるようになっていたのである。しかし、ペラギウスが29年間の安定した統治の後この世を去る頃には、タムリエルの諸地方はユリエル一世の時代よりも結束を固めていた。 我々の現在の皇帝である、ペラギウス四世の息子にして栄光あるユリエル・セプティム七世陛下は、大伯母モリハーサの勤勉さ、大伯父ユリエル六世の政治力、大伯父の父ユリエル五世の武勇とを受け継いだ。二十一年間にわたり、彼はタムリエルを統治し地上を正義の光で照らした。しかし第三紀389年、帝都軍の魔闘士ジャガル・サルンが謀反を起こしたのである。 ターンはユリエル七世を別次元に作りあげた牢獄に閉じ込め、幻惑を使って皇帝の地位を乗っ取った。その後10年間、ターンは皇帝としての特権と利益を欲しいままにしたが、ユリエル七世の始めた帝政の強化には無関心だった。今に至るまで、ターンの真の目的も、君主に成りすましている10年間に何を得たのかも完全にはわかっていない。第三紀399年、謎めいたチャンピオンが王宮の地下で魔闘士を倒し、別次元に捕らわれていたユリエル七世を解放した。 解放されて以来、ユリエル七世はタムリエルの全土を支配下に置くための戦いを精力的に続けている。ターンの邪魔によって勢いが落ちたのは事実であるが、近年の戦いが証明しているように、タムリエルをタイバー・セプティムの時代以来再び皇帝の栄光のもとに統一し黄金時代をもたらす希望は残されている。 歴史・伝記 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/199.html
狼の女王 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 筆:第三紀1世紀の賢者モントカイ 第三紀98年 今年も残りあと2週間というとき、皇帝ペラギウス・セプティム二世が逝去した。「北風の祈祷祭」のさなかの星霜の月15日のことで、帝都にとっては悪い兆しだと考えられた。皇帝が統治した17年間は苦難の連続だった。枯渇した財源をうるおそうと、ペラギウスは元老院を解散させ、その地位を買い戻させたのだ。有能だが貧しい評議員を何人か失った。皇帝は復讐に燃える元老院のメンバーによって毒殺されたのだ、多くのものがそう口にした。 亡き父の葬儀と新皇帝の戴冠式に出席するため、皇帝の子供たちが帝都にやってきた。末っ子のマグナス王子は19歳で、アルマレクシアから帰郷した。彼はそこで最高裁判所の審議官を務めていた。21歳になるセフォラス王子はギレインからレッドガードの花嫁、ビアンキ王女を連れて帰ってきた。長男のアンティス王子は43歳になる推定皇位継承者で、父とともに帝都で暮らしていた。最後に現れたのは、「ソリチュードの狼の女王」と呼ばれる一人娘のポテマだった。30歳になるまばゆいばかりの美女で、壮観な従者の一団を連れて、初老のマンティアルコ王と1歳になる息子のユリエルとともにやってきた。 当然のことながら、アンティオカスが皇位を継ぐものと思われていた。狼の女王に何かを期待するものはいなかった。 第三紀99年 「今週になって、毎日夜中近くに、ヴォッケン卿が数人の男をポテマ様の私室に連れ込んでおりました」と、諜報参謀は言った。「ご主人にそれとなく気づかせればおそらく──」 「ポテマは征服の神、レマンとタロスの信奉者だ。愛の女神、ディベラではない。その男たちと乱交に及んでいるのではなく、何かを企んでいるのだろう。誓ってもいいが、妹よりも私のほうが男とベッドをともにした経験が豊富だろう」アンティオカスはげらげらと笑ってから、真剣な顔つきになった。「元老院が戴冠を先延ばしにしている裏では妹が絡んでいるのだろう。まちがいない。もう6週間になる。書類の更新と戴冠式の準備に時間がかかるということらしいが。皇帝はこの私だ! 堅苦しいことは抜きにして、冠をかぶせてくれ!」 「たしかにポテマ様はあなたの友人ではございませんが、要因は他にも考えられますぞ。お父上がいかに元老院を冷遇されたか、お忘れではあるまい。警戒すべきは彼らのほうでしょう。必要とあらば、手荒い説得もやむをえませんな」諜報参謀はそう言うと、意味ありげにダガーを突いてみせた。 「かまわん。が、めざわりな狼の女王にも見張りをつけておけ。私がどこにいるかはわかってるな」 「どちらの遊郭でしょうか?」と、諜報参謀は訊いた。 「今日は金曜ゆえ、『猫とゴブリン』であろう」 ポテマ女王のもとに訪問者はなかったと、諜報参謀はこの夜の報告書に書きこんだ。というのも、ポテマは御苑の向かいにある蒼の宮殿で、実母であるクインティラ女帝と夕食をとっていたからだった。冬にしては暖かい夜で、昼間の嵐が嘘のように空には雲ひとつなかった。地面はたっぷり水を吸い込んでいたため、格式ばった庭園は水を撒いたあとのような光沢を放っていた。二人はワインを片手に広いバルコニーに向かい、地上を見下ろした。 「腹違いの兄さんの戴冠を妨害しようとしてるわね」と、クインティラは視線を合わさずに言った。時の流れは母親にしわを刻んだというよりも、しおれさせてしまっていた。そう、石に描かれた太陽のように。 「そのつもりはないわ」と、ポテマは言った。「でも、そうだと言ったら心が痛む?」 「アンティオカスは私の息子じゃないわ。私があの人と結婚したとき、アンティオカスは11歳だった。それからずっと疎遠なまま。あの子は推定皇位継承者になったせいで成長が止まったのよ。家庭を築いて立派な子供たちがいてもおかしくない年齢なのに、あいかわらず道楽と女遊びにふけってる。立派な皇帝にはなれないわ」クインティラはため息をついて、ポテマのほうを向いた。「けど、不満の種を撒いても家族のためにはならない。派閥に分かれるのは簡単だけど、絆を結びなおすのはとても難しい。帝都の未来が心配だわ」 「そんなことを言うなんて── お母さん、ひょっとしてもう長くないの?」 「凶兆が見えたわ」クインティラははかない、皮肉めいた笑みを浮かべた。「忘れないで、私はカムローンでは高名な妖術師なのよ。私の命はあと数ヶ月。それから一年もしないうちに、あなたの夫も亡くなるわ。心残りがあるとしたら、成長したユリエルがソリチュードの王になるところを見届けられないことね」 「お母さんには見えたのかな──」ポテマは言いよどんだ。自分の計画をぺらぺらと話すべきではなかった。その相手が、死にかけている母親であっても。 「ユリエルが皇帝になれるかどうかって? その答えもわかってるわ。心配しないで。あなたはその答えを見届けられるわ、いずれにしても。ユリエルに贈り物があるわ、大人になったときのために」女帝は大きな黄色の宝石がひとつ埋め込まれたネックレスを首から外した。「魂の宝石よ。雄々しい人狼の霊魂が吹き込まれているの。私とあの人が36年前に戦って倒したのよ。幻惑系の魔法をかけてあるから、着用者は望んだ相手を魅了できるわ。王様にはもってこいのスキルでしょう」 「皇帝にもね」ポテマはネックレスを受け取った。「ありがとう、お母さん」 一時間後、手入れされた一対の植え込みから伸びる黒い枝の脇を通りすぎたとき、ポテマは不穏な影に気づいた。その影は私室へと続く小道に立っていたが、ひさしの落とす闇の中へ消えた。あとをつけられていることには気づいていた。宮中の生活にはこうした危険がつきまとう。が、この影は彼女の私室に近づきすぎていた。ポテマは首のネックレスにそっと指をすべらせた。 「姿を見せなさい」ポテマは命じた。 男が暗がりからすっと出てきた。浅黒い小柄な中年の男で、黒く染めたヤギ皮をまとっていた。視線は凍りついたようにじっと動かない。魔法がきいているのだろう。 「誰に命じられたの?」 「わが主人、アンティオカス王子」と、男は死人のような声で言った。「私は王子のスパイ」 ある計画を思いついた。「王子は書斎にいるの?」 「いいえ」 「鍵は持ってるの?」 「はい、女王様」 ポテマは満面の笑みを浮かべた。この男はもう私のものだわ。「案内してちょうだい」 翌朝、またもや嵐が吹き荒れた。たたきつけるような風雨が壁や天井を打ち鳴らし、アンティオカスを苦しめた。昨晩遅くまで痛飲したのだが、若かりしときのように二日酔い知らずというわけにはいかないらしい。彼はベッドをともにしているアルゴニアの娼婦を激しく揺さぶった。 「たのむから窓を閉めてくれ」と、アンティオカスはうめいた。 窓が閉められるやいなや、扉にノックの音がした。諜報参謀だった。王子に微笑みかけると、一枚の紙を手渡した。 「こいつはなんだ?」と、アンティオカスは横目で見ながら言った。「まだ酔いがまわってるらしい。オークの字みたいに見えるよ」 「きっとお役に立ちましょう。ポテマ嬢がお見えになられていますぞ」 アンティオカスは服を着ようか娼婦を追い出そうか迷ったが、思いなおした。「部屋に通せ。あいつをカチンとこさせてやろう」 ポテマがカチンときたにせよ、表情には出さなかった。オレンジとシルバーのシルクにくるまって、勝ち誇った笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。人間山脈ヴォッケン卿がすぐあとをついてきた。 「こんばんは、兄さん。昨晩、お母さんと話してね、とっても知的なアドバイスをいただいたの。公の場では兄さんと戦うなと言われたのよ。家族と帝都のためを思って。そういうわけで──」そこまで言うと、法衣のふところから一枚の紙を差し出した。「兄さんに選ばせてあげるわ」 「選ぶ?」アンティオカスは笑みを投げ返した。「それはどうもご親切に」 「皇位をみずから放棄してちょうだい。そうすれば元老院にこれを見せる手間がはぶけるわ」ポテマは義兄に手紙を手渡した。「兄さんの印章つきの手紙よ。自分の父親がペラギウス・セプティム二世じゃなくて、宮廷執事のフォンドウクスだってことを兄さんは知っていましたって告白してあるの。さあこれで、この手紙を書いたかどうかを否定するまでもなく、兄さんは噂を否定できなくなるわ。それに、元老院はきっと、あの元皇帝なら奥方を寝取られてもさもありなんと信じるでしょうね。にっくき相手だもの。真実がどうあれ、手紙がいんちきであろうとなかろうと、このスキャンダルで兄さんが皇帝になれるチャンスは吹っ飛ぶわ」 アンティオカスは青ざめた顔で憤っていた。 「心配ないわ、兄さん」ポテマは兄の震える手から手紙をひったくった。「快適な隠遁生活を送れるようにしてあげるから。心が望むだけ、その下半身が望むだけ、娼婦をあてがってあげる」 と、アンティオカスはいきなり笑い出すと、諜報参謀に目配せした。「そういえば、私がこっそり隠していたカジートの春画を見つけ出して、脅迫してきたことがあったな。かれこれ20年も前になるか。おまえも気づいたはずだが、最近は鍵もかなり進歩しててね。自分の力では望んだものが手に入らないとわかって地団駄を踏んだことだろうな」 ポテマはただ笑ってみせた。だからなんだっていうの。もうこっちのものだもの。 「ここにいる私の従者を魅了してまんまと書斎に入り込み、印章を使ったんだな」アンティオカスはにやにや笑った。「呪文を使ったか。魔女の母親に教わって?」 ポテマはひたすら笑みを浮かべていた。義兄は思ったよりも頭が切れるわ。 「魅了の呪文は、どんなに強力なものでも、後に効力が消えることを知っているか? もちろん、知らなかったろう。魔法はおまえの得意とするところじゃなかったからな。ひとつ教えてやろう。長い目で見れば、呪文をかけるより、俸給をふんぱつしたほうが奉公人はより長い間仕えてくれるものさ」今度はアンティオカスが一枚の紙を取り出した。「それでは、おまえに選択肢を与えよう」 「どういうこと?」と、ポテマは言った。笑顔はしおれかけていた。 「意味不明なものにしか見えないが、心当たりがあるならはっきりとわかるだろう。練習用紙だよ。私の筆跡に似せようとしているおまえの筆跡でいっぱいの。いい贈り物をもらったよ。以前にもやったことがあるんじゃないのか、他人の筆跡をまねたことが。そういえば、おまえの旦那の亡くなった奥方が書いたとされる、夫婦の第一子は婚外子と告白した手紙が見つかったそうだな。その手紙もおまえが書いたんじゃないのか。おまえがくれたこの証拠を旦那に見せたら、あの手紙もおまえが書いたものだと信じるかもしれないな。いいかね、狼の女王。今後いっさい、同じような罠をしかけようなんて思いなさんな」 ポテマはかぶりを振った。はらわたが煮えくり返ってしゃべることもできなかった。 「そのいんちきの手紙をよこすんだ。で、ちょっと雨にでも打たれてくるといい。そして、のちほど、私を皇位につかせないためにおまえがどんな陰謀をたくらんでいたのか白状してもらうとしよう」アンティオカュスはポテマをまっすぐに見すえた。「私は皇帝になるつもりだよ、狼の女王。さあ、行くがいい」 ポテマは義兄に手紙を手渡すと、部屋を出ていった。廊下に出てからしばらく、言葉が出てこなかった。大理石の壁についた目に見えないほど細かい裂け目からしたたり落ちる銀色の雨水をじっとにらんでいた。 「ええ、皇帝になるがいいわ」と、ポテマは言った。「けど、いつまでもというわけにはいかない」 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/savagetide5th/pages/578.html
Cambion カンビオンはフィーンド(通常はサキュブスやインキュブス)と人型生物(通常は人間)の間に生まれた子供である。カンビオンは両方の親の相を引き継いでいるが、その角、皮革のような翼、筋骨逞しい尾は異世界の血統を明らかに示している。 彼らは最も愛情深い定命の親たちですらぞっとさせられるような邪悪さと堕落を持つ冷酷な大人に成長する。若い頃ですら、カンビオンは定命の者に君臨する立場こそ自らに相応しいと考えている。 カンビオンの種族特徴については下記に示す。 カンビオンの種族特徴 カンビオンのキャラクターは下記の種族的特徴を有する。 クリーチャー種別 カンビオンのクリーチャー種別は人型生物ではなくフィーンドである。 能力値上昇 君の【魅力】の値は1上昇する。 年齢 カンビオンは彼らの血筋に応じて1,000年以上の寿命を生きる。 属性 ほとんどのカンビオンはその片親たるフィーンドの属性を引き継いでおり、悪属性である。彼らの多くは救いようもなく悪であるが、すべての者が衝動的な破壊行動に駆り立てられるサイコパスだというわけではなく、悪の衝動を抑えつつ、自らの目標を達成するために冷静に長期的な計画を立てて行動する者たちも多数存在する。またごく僅かながら、その生来の悪の性情をすさまじい意志の力で抑えつけて別の道に踏み出した者もいるが、そうした者は自らの選んだ道を秘密にしていることが多い。 サイズ カンビオンの体格は基本的に定命の親のそれを引き継いでおり、背中からは蝙蝠のような翼を生やし、逞しい尾を有している。君のサイズ分類は中型サイズである。 移動速度 君の基本歩行移動速度は30フィートであり、また30フィートの飛行移動速度を有する。 暗視/Darkvision 君は60フィート以内の薄暗い光を、あたかも明るい光であるかのように見ることができ、暗闇の中をそこが薄暗い光の中であるかのように見ることができる。君は暗闇の中で色を見分けることはできず、灰色の濃淡しか識別できない。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting カンビオンはアクションによってプロデュース・フレイムの初級魔法を発動することができる。それに用いる生来の呪文発動能力は【魅力】である。 フィーンドの祝福/Fiendish Bless 5レベル以降、アーマー・クラスにボーナスを得る。このボーナスは特殊な計算を用いる。この特徴以外の要因すべてによって決定されるアーマー・クラスを算出した後、【魅力】修正値に等しいボーナス(最低+1)を加算するが、このボーナスによるアーマー・クラスは最大でも20までしか上昇しない(元々の要因によって20を超えているなら何のボーナスも得られない)。これはシールド呪文などの一時的な要因による上昇に対しても同様に計算される(シールド呪文による上昇を加算した後で、最大20までの範囲でこの特徴によるボーナスを加算すること)。 言語 君は共通語を読み、書き、話すことができる。 副種族 カンビオンにはフィーンドの片親に応じたいくつかの副種族が存在する。 スポーン・オヴ・グラッズド 特にデーモン・ロードのグラッズドは、フィーンドと契約を結んだ人型生物との生殖行動が大好きであり、多元宇宙のあちこちに混沌を植え付けるべく、彼を手助けする数多くのカンビオンたちの種親となっている。こうしたグラッズドの申し子であるカンビオンたちは、木炭のように黒い皮膚、割れた蹄のある脚、6本の指を持つ手、そしてこの世のものならぬ美しさをその特徴としている。デーモン種に属するクリーチャーは君の放つオーラを通じて即座に君の血筋に気付くであろう。 能力値上昇 君の【知力】の値は1上昇する。また【魅力】の値はさらに1上昇する(合計で2上昇する)。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、オルター・セルフ呪文を発動することができるようになる。この呪文に関する君の生来の呪文発動能力は【魅力】である。いったん使用すると、大休憩を取り終えるまでは再びこれを使用することはできない。 この世のものならぬ美しさ/Unearthly Beauty 君は〈説得〉と〈ペテン〉技能に習熟し、これらの技能を用いた能力判定には習熟ボーナスの2倍を適用することができる。 言語 君は奈落語を読み、書き、話すことができる。 ヒューマン・ボーン 君の片親は人間であり、カンビオンの中では最も一般的な種族である。君は赤い皮膚と大きな角を持つ。 能力値上昇 君は任意の3つの能力値について1ずつ上昇する。このとき、【魅力】を選択するのであれば、種族特徴としての上昇分と合わせて合計2上昇させることもできる。あるいは、特技の選択ルールを採用しているのであれば、能力値を上昇させる代わりに特技を1つ修得することもできる(その場合、カンビオン共通の能力値上昇である【魅力】の1上昇も失う)。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、ディテクト・マジック呪文を儀式として回数無制限で発動することができるようになる。 言語 君は地獄語か奈落語のどちらかを読み、書き、話すことができる。またそれとは別にもう1つの言語も修得している。 エルヴン・ボーン 君のハーフエルフ・カンビオンであり、エルフの親と同じ皮膚の色をしている。君はエルフと同じ成長速度で成長するが、最終的には1,000年以上の寿命を生きる。 能力値上昇 君の【敏捷力】の値は2上昇する。 フェイの血筋/Fey Ancestry 君は魅了状態にされるのに抵抗するセーヴィング・スローに“優位”を持ち、また魔法で眠らされることはない。 エルフ武器の訓練/Elf Weapon Training 君はロングソード、ショートソード、ショートボウ、そしてロングボウに習熟している。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、ミスティ・ステップ呪文を発動することができるようになる。いったん使用すると、大休憩を取り終えるまでは再びこれを使用することはできない。 言語 君は地獄語か奈落語のどちらかを読み、書き、話すことができる。またそれとは別にエルフ語も修得している。
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/87.html
アルゴニアン報告 第2巻 ワーリン・ジャース 著 泥と葦原の中から現れたデクマス・スコッティは走り疲れていた。その顔と腕は赤いニクバエにびっしりと覆われていた。シロディールを振り返ると、厚くどんよりした黒い河の中へと橋が消えていくのが見えた。潮が引くまでの数日間はあそこへ戻れないことを悟った。そのネバつく河の底にはブラック・マーシュに関する報告書が沈んだままであった。こうなった今、ギデオンに連絡を取るにはもはや記憶に頼るしかなかった。 メイリックは葦原の中を強い意志をもって突き進んで行った。無駄と知りつつ、スコッティもニクバエをはたき落としながらあとを追いかけていった。 「私たちはツイてますよ、スコッティ卿」と、レッドガードが言った。スコッティはその言葉に首をかしげながら、男の指す方向へと目を向けた。「キャラバンがおります」 ガタガタの木造車輪をつけ、泥にまみれ錆びついた荷馬車が21台、ぬかるんだ地面に半分車輪を沈ませながらそこにいた。アルゴニアンの一群が他の馬車から離れたところにある1台をひいていた。彼らは灰色の鱗と灰色の目をしており、シロディールではよく見られる寡黙な肉体労働者である。スコッティとメイリックがその馬車へ近づくと、果物というより腐ったゼリーのようになってなんだか分からないほどに傷んだブラックベリーで荷台があふれかえっていた。 彼らはまさにギデオンへと向かう途中だったので、彼らの承諾を得て、スコッティはランベリーを積みおろした後に馬車に乗せてもらえることになった。 「この果物はどれくらい前に摘み取られたのですか?」とスコッティは腐りかけの荷物を見ながら尋ねた。 「収穫の月に獲れたものだよ」とこの荷馬車の長と見られるアルゴニアンが答えた。今が11月だから、畑から運ばれてかれこれ2ヶ月ちょっと経っている。 スコッティは、この輸送は明らかに問題だと思った。その問題点をなくすことこそが、ヴァネック建設会社の代理人を務める自分の仕事だと思った。 日光にあたって余計に傷みつつあるベリーを載せた馬車を脇道へ追いやるのに小一時間かかった。荷馬車同士は前後に連結されていた。キャラバンの先頭を行く荷馬車をひく8頭の馬のうちの1頭が連れてこられ、離れた荷馬車につながれた。労働者たちには覇気がなく、倦怠感が漂っていた。スコッティはこの時間にほかのキャラバンを調べたり、自分と道連れになる旅人と話したりしていた。 荷馬車の内、4台には中に備え付けのシートがあるが、乗り心地はあまりよいものではなかった。他の荷馬車には穀物や食肉、そして野菜などが積み込まれており、程度の差こそあれ、それぞれみな傷んでいた。 旅人はアルゴニアンの労働者が6人、虫にたくさん食われて皮膚がアルゴニアンの鱗のようになってしまった帝都の商人が3人、そしてマントに身をつつんだ3人。マントの3人はフードの影から覗く赤く光る目からすると、明らかにダンマーだった。皆が帝都通商街道に沿って荷を運んでいた。 顎の高さまで伸びる葦が広がる草原を見渡し「これが道なのか?」とスコッティは叫んだ。 「固い地面みたいなもんだ」とフードをかぶったダンマーの1人が答えた。「馬は葦を食べ、我々も時に葦で火をおこすが、抜いたそばからすぐに新しい葦が生えてくる」 ようやく荷馬車長がキャラバンの出発の準備が整ったことを知らせ、スコッティもほかの帝都の人間たちと3番目の荷馬車に乗り込んだ。席を見渡すとメイリックが乗っていないことに気づいた。 「私はブラック・マーシュまでの行き来しか承諾してませんよ」とレッドガードは葦原の中へ石を投げ込み、ひげだらけのニンジンにかぶりつきながら答えた。「ここであなたのお帰りをお待ちしておりますよ」 スコッティは顔をしかめた。メイリックがスコッティを呼びかける際、名前の後に「卿」を付けなかったからだけではない。いまや彼にはブラック・マーシュには誰も知り合いがないことになるのだが、荷馬車はギシギシと音をたてながらゆっくりと前へ進みだしていたので、もはや議論する時間はなかった。 毒をはらんだような風が通商街道を吹き抜け、葦原に奇妙な模様を描いていった。遠くには山のようなものが見えるが、わずかながらに動いているため、それは濃い霧の壁であることがわかった。たくさんの影が風景を横切っていき、スコッティが空を見上げると巨大な鳥が数羽飛んでいた。その剣のようなくちばしは、身体と同じくらいの長さだった。 「ハックウィングだよ」スコッティの左側に座る帝都のケアロ・ジェムラスがぶつぶつ言った。彼はまだ若いようだったが、疲れきって老人のように見えた。「ここはまったくあきれた場所だよ。ぐずぐずしてたらパクッとひと飲みされちまうよ。あの物乞いたちは急降下してきて、あんたに一撃を食らわし、飛び立った頃にはあんたは失血死でおだぶつさ」 スコッティは震え上がった。夜が更けるまでになんとかギデオンに到着できることを祈った。その時彼は、太陽の向きがおかしいことに気づいた。 「失礼だが……」と、スコッティは荷馬車長に聞いた。「ギデオンに向かっているのですよね?」 荷馬車長はうなずいた。 「それならばなぜ北へ向かっているのですか? 我々が向かう方角は南なのでは?」 返事の代わりにため息が返ってきた。 スコッティはほかの旅人もギデオンに向かっていることを確認したが、誰一人としてこのおかしなルートを取ることに疑問を抱いてなかった。荷馬車の固い椅子は、中年の背中や腰には正直こたえたが、キャラバンの動くリズムや葦の揺れに誘われ、スコッティはいつのまにか眠ってしまった。 数時間後、スコッティは暗闇の中目を覚ました。今、自分がどこにいるのかがわからなかった。キャラバンは停車しており、気づけばシートの下の床に横たわっていた。横には小箱がいくつかあった。シーシーカツカツという声が聞こえてきた。彼には何語なのかまったくわからなかったが、誰かの脚の間から何が起こっているのか見えた。 双月の光はキャラバンを囲むこの厚い霧の中ではわずかに差し込む程度であり、声の主が一体誰なのか、今いる位置からはっきりとはわからなかった。どうも荷馬車長がぶつぶつと独り言をいってるかのように見えたが、暗闇の中で動くものはしっとりとした、光り輝く皮膚をしているようだった。一体その生物がどれだけいるのかは検討がつかないが、とにかく大きくて、黒くて、目を凝らすとより細かな部分が見えてきた。 ぬらぬらと光る針のように尖った牙でいっぱいの巨大な口が見え、スコッティは急いでシートの下へとまた滑り込んだ。彼らの黒い眼はスコッティをまだとらえてはいなかった。 スコッティの目の前にあった脚はパタパタと動き出し、そのまま何者かに荷馬車の外へと引きずりだされた。スコッティはさらに奥へと縮こまり、小箱の間で体を小さくした。スコッティはきちんとした身の隠し方というものを心得てはいなかったが、盾を使った経験はあった。なんでもいいから相手との間に障害物があることは感謝すべきことであった。 瞬く間に、目の前にあった脚はすべて消え去り、絶叫が1つ、2つと聞こえてきた。その叫び声は声質も、アクセントも違っていたがその叫びが伝えてくるものは…… 恐怖、苦痛、それも恐ろしい苦痛であった。スコッティは長い間ステンダール神へ祈祷していなかったのを思い出し、この場で祈りをささげた。 静寂が訪れた…… それは不気味なほどの静けさで、数分が数時間、数年にさえも感じられた。 そして荷馬車は再び動き出した。 スコッティは周りに注意を払いながらシートから這い出した。ケアロ・ジェムラスが困惑した表情を向けた。 「やあ、お前さん…… てっきりナガスに食べられちまったかと」 「ナガス?」 「たちの悪いやつらさ」とジェムラスは顔をしかめて言った。「腕と脚のついた大毒蛇さ。怒り狂って立ち上がったときは78フィートほどの高さになる。内陸の沼地から出てくるんだが、ここいらの物はさして好みじゃなさそうだ。だからお前さんのようなお上品な人間は奴らの大好物なんだよ」 スコッティは今のいままで自分が上品だと思ったことは一度もない。泥にまみれ、ニクバエに喰われた彼の服はせいぜい中流階級あたりの格好だ。「なぜ私を狙うのだ?」 「そりゃもちろん奪うためさ」と帝都の男は笑顔で答えた。「あと殺すためだな。お前さん、ほかの者たちがどんな目に遭ったか分からないのか?」男は先ほどの光景を思い出したように、顔をしかめた。「シートの下にある小箱の中身を試してないのか? 砂糖みたいなもんさ。どうだい?」 「いいや」とスコッティは顔をしかめた。 男は安心してうなずいた。「お前さんはちょいとのんびり屋みたいだな。ブラック・マーシュは初めてか? ああ、クソッ! ヒストの小便だ」 スコッティがジェムラスが発したその下品な言葉の意味を聞こうとすると雨が降ってきた。地獄の果てのような悪臭を放つ褐色の雨がキャラバンに降り注いだ。遠くで雷がゴロゴロと鳴っていた。ジェムラスは馬車に屋根をかぶせようとし、スコッティの方へじっと視線を送るので、しかたなくスコッティも手伝いをするはめになった。 この冷たい湿気のせいだけではなく、屋根で覆われていない荷台の作物にさきほどの雨が降りこんでいる光景を見て、スコッティはぞっとした。 「すぐに乾くさ」とジェムラスは笑顔で言い、霧の中を指した。 スコッティはギデオンを訪れたのはこれが初めてだが、どんなところかの大体の予想はしていた。帝都と似たり寄ったりの大きな建物、建築様式、過ごしやすさ、伝統を持っている土地であると。 しかし泥の中に居並ぶあばら家の寄せ集めはまったく違っていた。 「ここは一体どこだ?」とスコッティは当惑して聞いた。 「ヒクシノーグだ」ジェムラスは奇妙なその名前を力強く発音した。「お前さんが正しかったよ。南へ行くべきところを北へ向かっていた」 物語(歴史小説) 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/227.html
曝されし手掌の道 未熟な拳闘家は、太鼓をたたくように拳をやたら振りまわして敵をぶちのめすものだ。甚だ無様な勝利である。曝されし手掌の道とは、それよりもはるかに洗練されていて、危険極まりないものだ。 ひとつ問いを与えよう。ある男の胸を一枚の大皿で引っぱたいた。小さなあざができるが、怪我らしい怪我はそれだけだ。そこで大皿を割ってその破片を手にとり、同じだけの力でもって男の胸を突き刺した。今度ばかりは男も死ぬか重傷を負うだろうが、なぜなのか? どうして大きな皿より小さな破片のほうがひどい傷を負わせられるのか? この質問の要点がそのまま、曝されし手掌の道の最初の指となる。手掌の指は五つある。集中、反応、均衡、速力、呼吸の指だ。素手による戦闘をきわめるには、これらの五つの指をすべて究めなければならない。 男と大皿の話は、「集中」の指の比喩である。すべての殴打は一点に集中させることで威力を増す。拳全体で打ち抜くよりも、親指だけで攻撃したほうが致命傷を負わせられるが、厳しい訓練を積んだ戦士にしかできない芸当だ。 「集中」はまた、自分がなすべきことだけを考えるための精神的鍛錬も意味する。究極的な目標をいつも見すえていれば、意志が雑念に揺らぐことはない。真なる戦士は、痛みすら遮断することができる。 兵法・戦術 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/71.html
バレンジア女王伝 第1巻 スターン・ガンボーグ帝都書記官 著 第二紀の後期、バレンジアはモーンホールド王国(現在の帝都州モーンホールド)の王女として生まれた。バレンジアは5歳まで、ダークエルフの王女にふさわしい贅沢と保護の下で育った。その頃、タムリエルの初代皇帝、タイバー・セプティム1世閣下はモロウウィンドの堕落した王たちに対し、彼の帝都支配下に加わるよう要請したのだった。自らの魔力を過信したダークエルフたちはその要請を拒み続けたため、ついにタイバー・セプティムの軍は国境まで迫ってきたのであった。結果としてダークエルフは停戦に合意したが、そこに至るまでにはいくつかの戦があった。その一つは、モーンホールド王国のがれきの山と化していた、現在のアルマレクシアにて繰り広げられた。 幼い王女バレンジアと乳母は、戦のがれきの中で発見された。ダークエルフでもあった帝都将軍シムマチャスは、その幼き子を生かしておけば後に役立つかもしれないと皇帝に進言した。こうして、バレンジアは元帝都軍兵に預けられることになった。 元帝都軍兵であるその人物、スヴェン・アドヴェンセンは、引退した際に伯爵の位を授かっていた。彼の領地、ダークムーアはスカイリム中心部にある小さな町だった。セヴン伯爵とその妻は、自らの子供のように王女を養育し、なによりも帝都の一員としての美徳、すなわち遵法、分別、忠誠、信仰などを教えこんだ。その結果、彼女はすぐにモロウウィンドの新しい支配者の一人としてふさわしい資質を身に付けた。 バレンジアは美しく、気品と知性にあふれた少女に育った。彼女は優しく、また養父母の誇りでもあり、養父母の5人の息子たちもみな彼女を姉として慕った。彼女には、見た目以外にも他の少女にはない特質を持っていた。森や野原と心を通わせ、ときどき家を抜け出しては自然の中を歩き回るくせがあったのだ。 16歳までバレンジアは、とても幸せな毎日を送っていた。そんなある日、仲良くしていた厩番の孤児の不良少年から、セヴン伯爵と客のレッドガードとの間で行われた話を聞かされたのであった。どうやら妾として彼女をリハドへ売り飛ばすことを企んでいるらしいことを。ノルドやブレトンは肌が黒い彼女と結婚したがるはずもなく、ダークエルフでさえも異人種に育てられた彼女を嫌がるに違いないという考えを伯爵は持っているというのである。 「どうすればいいのかしら?」と、バレンジアはふるえながら涙声で言った。まっすぐに育った彼女は、友達である厩番の少年が嘘をついているなんて思いもしなかったのである。 そのストロウという名の不良少年は、彼女の護衛を買って出て、貞節を守るべく一緒に逃げることを勧めてきた。悲しげにバレンジアはその計画を受け入れた。 そしてその夜、目立たぬよう男装をしたバレンジアとストロウは、ホワイトランの町へ逃げたのだった。 ホワイトランに着いてから数日後、彼らはある隊商を護衛するという仕事に就いた。このいかがわしい隊商は帝都の街道を通ると通行税がかかるため、脇道を通って東へ向かおうとしていたのである。そして、隊商とともに彼らは追っ手に見つかることなくリフトンの町へ辿り着き、しばらくその地に身を置くことにしたのだった。彼らはダークエルフが珍しくないこのモロウウィンドとの境界に近い町に、束の間の安らぎを感じたのであった。 歴史・伝記 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/246.html
晩餐での遊戯 姓名不明のスパイによる 出版社による序文: この手紙の出版にいたる経緯は、手紙の内容と同様に謎が多く、興味深い、数ヶ月前、ダウネインという謎の人物に宛てられたこの手紙の複製が、ヴァーデンフェルのアッシュランドで流出し、広まるようになった。やがて、一部の複製がアルマレクシア郊外のフラール・ヘルセス王子の宮殿にまで届いた。読者は、王子がこの手紙を読んで彼自身に対する悪意に満ちた中傷に激怒したと思われるに違いない。しかし、実際の王子の反応はまったく逆であった。王子とその母親であるバレンジア女王は、装丁もされたこの手紙の複製を個人的に作らせ、それを各図書館や出版社に送付したのである。 記録すべき事項として、王子と女王はこの手紙が完全な創作であるか、実際に起こった出来事を描写したものであるかという点については公式に言明していない。ドレス家はこの手紙が創作であるとして非難を表明しており、またダウネインという名の人物とドレス家の間に、この手紙から読み取れるような関係が持たれたことはこれまでにないとしている。この手紙の解釈については、読者の信ずるところにお任せしたい。 ──出版者:ネリス・ガン **** 闇の君主ダウネイン様 あなた様は、昨夜の出来事と私のドレス家への申し立てについての詳細な報告を次なる指令としてお与えになりました。ヘルセス王子の宮廷内からの情報提供者としてこれまでの私の仕事が、ご期待に添えていればよいのですが。これまでの報告の中で何度もお伝えしたとおり、ヘルセス王子という人物は、モラグ・バルですら裸足で逃げ出すであろうほどの恥知らずです。ご存知のように、私は1年近く前から親密な助言係の一人として王子の周辺に入り込んでいます。彼がモロウウィンドに来たばかりの頃、彼は友情に飢えており、私と他の数人の助言者を積極的に周囲に置きたがったのです。今でも、彼は私たちに衰えることのない信頼をおいています。モロウウィンドにおける王子の政治的存在感の希薄さゆえのことだと思います。 邪悪なあなた様のご参考までに、もう一度基本的な事実を書いておきますと、王子は、元モロウウィンド女王であり、ウェイレストのハイ・ロック王国女王だったこともあるバレンジアの長男です。バレンジアの夫であり、ヘルセス王子の義父であった国王エドウィーアの死後、エドウィーアの娘エリサナ姫とヘルセス王子との間に権力争いがあったようです。洩れ聞こえてくる噂だけではこの争いの詳しい成り行きはわかりませんが、最終的にエリサナが勝ってウェイレスト女王になり、ヘルセスとバレンジアを追放したことは確かです。バレンジアのもう一人の子、モルジアは、すでに結婚してサマーセット島のファーストホールド王国の女王となりウェイレスト王室から離れていました。 バレンジアとヘルセスが大陸を横断してモロウウィンドに帰ってきたのは、つい昨年のことでした。バレンジアの叔父でバレンジアが40年以上前に退位した後王位を継いだ現国王のフラール・アシン・リーザンは、手厚く彼らを迎えました。バレンジアは、王位を取り戻そうという気などなく、ただ彼女らの家族の屋敷で隠居生活を送りたいだけなのだということを明言しました。ヘルセスのほうは、ご存知のように、王宮での役職にしがみつき、多くの者はウェイレストの王位を失った彼がリーザンの死後モロウウィンドの王位を狙っているのだと噂しています。 私は今まで、邪悪なあなた様に、王子の行動や出会った人物、企て、助言係の者たちの名前や性格などを報告してきました。何度かお伝えしたとおり、私はヘルセスの周辺に私以外にもスパイがいるのではないかと思っています。以前、あるダークエルフの相談役が裁きの神殿の大司教ゾラー・サリョーニと行動を共にしていた人物と似ていることをお伝えしたと思います。また、別のノルドの若い女性などは、バルモラにある帝都の要塞を訪れていたことがわかっています。もちろん、彼らの場合、ヘルセスの側が各所に送り込んでいるスパイという可能性もありますが、実際のところはわかりません。王子がウェイレストの王宮にいた頃から侍従を務めているブレトンのバージェスの忠誠までもが疑わしく思えてくるにいたっては、自分が王子自身と同じように妄想狂なのではないかという気にもなってきます。 以上が、昨夜の、あの出来事の背景となる事実です。 昨日の朝、王子との晩餐会へ誘う簡潔な招待状が私のもとに届きました。被害妄想から、私はドレス家に忠実で有能な部下を王宮に送り込み、なにか変わったことがないか調べてくるように言いました。晩餐の少し前、彼が戻ってきて、王宮で見たことを報告しました。 ぼろぼろの服を身にまとった男が城に入ることを許され、しばらくの間城内にとどまっていたというのです。その男が帰ってゆくときに、部下はマントの下の顔を垣間見たのですが── それは悪名高い錬金術師で、異国の毒薬の密売を一手に担っているといわれている人物だったのです。部下は観察力に優れており、男が城に入るときに、ウィックウィートやビターグリーン、その他の嗅ぎ慣れない甘い匂いを漂わせていることに気付いていました。そして、男が城を出るときには、それらの匂いは消えていたというのです。 部下の出した結論は、私と同じでした。王子が、毒薬を調合するための材料を彼から調達したのです。ビターグリーンだけでも、生で口にすれば死を招きます。そこに他の材料を加えるというのは、何かもっと巧妙な企みがあることを匂わせていました。邪悪なあなた様なら難なくご想像がつくことと思いますが、私はあらゆる事態に対する心構えをしてその夜の晩餐に挑みました。 晩餐会には、ヘルセス王子の相談役の全員が出席しており、その全員が微妙に何かに対して身構えているように感じられました。もちろん、私は最初、ここにいる全員がスパイであり、王子と謎の錬金術師との密会を知っているのだと考えました。しかし、こうとも考えられました。つまり、何人かは錬金術師の来訪を知っており、他の何人かは晩餐会の目的そのものが何なのかと不安に思っており、そして残りの者は、ただ情報を持っている他の相談役たちの張り詰めた空気につられて緊張しているだけかもしれなかったのです。 しかし、王子自身は上機嫌で、その場の全員の緊張をすぐにほぐし、くつろいだ雰囲気を作りました。我々は9時に食堂へ案内され、そこにはすでに料理の支度がされていました。その料理の豪華なことといったら! ゴラップルの蜂蜜漬けにはじまり、香草のシチューや何種類もの肉汁のソースで味付けされたロースト、あらゆる複雑な方法で調理され豪華に盛り付けられた魚や鶏。水晶や黄金のびんに入ったワイン、フリン、シャイン、マッツェなどがそれぞれの席に並べられ、料理にあわせて楽しめるようにされていました。料理や酒の香りは非常に素晴らしいものでしたが、そのような香辛料や他の香りが複雑に絡み合う中で、毒薬の目立たない匂いを嗅ぎ分けるのは不可能だと考えずにいられませんでした。 晩餐の間中、私は幻惑を使い、料理を食べていると見せかけながら実際には何一つ口にしませんでした。やがて、最後にテーブルの上から空の皿や残った料理が下げられ、大きな蓋付きの器いっぱいの香草をきかせたスープが運ばれて来ました。給仕の者はそれをテーブルの中心に置くと、食堂を出て扉を後ろ手に閉めました。 「素晴らしい香りですわ、王子」と、ノルドの女侯爵、コルガーが言いました。「でも、もう食べられそうにありません」 「殿下」私は、親しみを込めた口調を装いながら、なだめすかすような調子も多少込めて言いました。「ここにいる者はみな、あなたをモロウウィンドの王にするためならば喜んで死ぬでしょう。でも、このままではその前に、ごちそうの食べすぎで死んでしまいますよ?」 他の者たちも、不安そうなうめき声とともに同意しました。ヘルセス王子は笑みを浮かべました。闇の支配者様、贈り主ヴェルニーマに誓って申し上げますが、いくらあなた様といえどもあのような笑みは今までに見たことがないでしょう。 「皮肉な言葉だな。いいか、この中の何人かは確実に知っていることと思うが、ある錬金術師が今日、私のところへ来たのだ。そして彼は素晴らしい毒薬と、その解毒剤の作り方を教えてくれた。私の目的にぴったりの、強力な毒薬だ。いったん飲み込んでしまえば、もうどんな回復の呪文でも治らない。確実な死から逃れるには、このスープに入った解毒薬を飲むしかない。そして、もし私が聞いたとおりならば、その毒による死に様は素晴らしいぞ。あの錬金術師のいったとおりの効果が出るのを、早く見たくて仕方がないのだ。毒におかされた者にとっては恐ろしく苦痛を伴うが、その様子は見ものだそうだからな」 全員が黙りこみました。私は、心臓が激しく打つのを感じました。 「殿下」と、アララトが口を開きました。私が裁きの神殿からのスパイではないかと疑っていたダークエルフです。「ここにいる誰かに、その毒を盛ったのですか?」 「お前は本当に抜け目がないな、アララト」ヘルセス王子は言い、テーブルを囲む人々を見渡し、一人一人と目を合わせました。「お前は大切な相談役だ。ここにいるほかの者たちと同じくらい大切な。そうだな、この中で私が毒を盛らなかった者を挙げたほうが早いかもしれないな。私は、私をたった一人の主人として仕え、私だけに忠誠を誓っている者には毒を盛らなかった。ヘルセス国王がモロウウィンドを治める姿を見たいと思っている者には、毒を盛らなかった。帝都や、神殿や、テルヴァニ家、レドラン家、インドリル家、ドレス家のスパイでない者には、毒を盛らなかった」 邪悪な支配者様、王子は、「ドレス家」と言ったとき、まっすぐに私のほうを見たのです。間違いありません。私は、考えを顔に出さないよう訓練をしていますので、その時も私の顔から考えは読み取れなかったはずです。しかし、闇の支配者さま、内心では今までにした全ての密会やあなた様とドレス家への暗号文での通信などが瞬間的に思い出されていたのです。いったいそのうちの何が王子に知られてしまったというのでしょう? もしそれらを知らなかったとすれば、王子はどうしてそのような疑いを抱くにいたったのでしょうか? 私の鼓動は、ますます早くなりました。恐怖のためでしょうか、それとも毒がまわってきたのでしょうか? 私は何も喋れませんでした。何かを言えば、確実に冷静な無表情に似つかわしくない声が出てしまうと思ったのです。 「私に忠実で、私の敵を痛めつけたいと望んでいる者たちは、私が確実に敵に毒を飲ませられたかどうか不安に思うだろう。私の敵は、というより、敵たちと言ったほうがいいな、彼らは今夜出されたものを飲んだり食べたりするふりをしていただけかもしれないからな。それはそうだろう。だが、どんなにうまく食べるふりだけをしていても、その馬鹿げたジェスチャーゲームをうまくやりとおすには、空のグラスに口をつけたり、何もないフォークやスプーンを口に運んだりはしなければなるまい。いいか、食べ物には毒は入っていなかったんだ。カップや食器につけてあったんだよ。食べるふりをしていた者たちも、食べたものも同じように毒を口にしたはずだし、食べるふりをしていた者は、その上にあの素晴らしいローストを味わい損ねたというわけだな」 私の顔に玉のような汗が噴き出し、それを隠すために王子から顔を背けました。他の相談役たちはみな、椅子に腰掛けたまま固まっていました。女侯爵コルガーの顔は青白く、ケマ・イネッブなどは明らかに震えていました。アララトは怒りに眉をしかめ、バージェスは銅像のように固まったまま一点をみつめていました。 その時になると、私には王子の相談役全員がスパイのみで構成されているとしか思えませんでした。このテーブルの周りに、王子に忠実な者などいるのでしょうか? そして、もし私がスパイではなかったとしたら、私はヘルセスに疑われていないと信じきれたでしょうか? 相談役の者はみな、王子の被害妄想の深刻さと彼の野心に対する執念深さを誰よりもよく知っています。もしも、私がドレス家のスパイではなかったとして、それで自分は安全だと思えたでしょうか? 忠実な者が、疑わしきは罰せよ式の誤った判断で毒を盛られることもあり得るではありませんか? 他の者たちも、忠臣もスパイもみな、同じ事を考えていたはずです。 私の頭の中で様々な考えがめまぐるしく浮かんでは消えしていたその時、王子が全員に向かって言った言葉が耳に入りました。「この毒のまわりは早い。もし今から1分以内に解毒剤を飲まなければ、テーブルの周りに死者が出始めるだろう」 私は、自分が毒を口にしたのかどうか確信しかねていました。胃が痛んでいましたが、それは贅沢な料理を目の前にしながら何一つ食べなかったためかもしれませんでした。鼓動は胸全体を揺り動かすようで、トラマの根のようなしびれる苦味を唇に感じていました。恐怖のためでしょうか、それとも今度こそ毒のせいでしょうか? 「私を裏切っていた者たちにとっては、これが最期に聞く言葉になるだろうな」ヘルセス王子は、あのいまいましい笑みをうかべたまま、椅子の上で身をよじっている相談役たちを見回しました。「解毒剤を飲んで、生き延びてはどうだ」 彼の言うことを信じるべきなのでしょうか? 私の知るヘルセス王子という人物について思い返してみました。彼はスパイであることを自白した物を殺すでしょうか、それともそのスパイを利用し、送り込んだもののところへ送り返して復讐をさせるでしょうか? 王子の冷酷な性格からすると、どちらの可能性もありえそうに思えました。明らかに、この晩餐の芝居がかった演出は、出席者に恐怖を植え付けることを目的としているようでした。私が晩餐会に出席し、毒を盛られて殺され、あの世でご先祖様に会ったらいったいどう思われることでしょう? もし私が言われるままに解毒剤を飲み、あなた様とドレス家のスパイであることを自白して、裁判もなく処刑されたとしたらどうでしょう? それに、白状しますが、私は死んだ後あなた様が私にいったい何をするのかをも恐れていました。 私はめまいを起こし、自分の考えで頭がいっぱいだったので、バージェスが椅子から飛び上がったのにも気付きませんでした。私が気付いたときには、彼は器を両手に抱え、中の液体をがぶがぶと飲んでいるところでした。周囲には、いつの間にかたくさんの衛兵が待機していました。 「バージェス」と、ヘルセス王子が、笑みを浮かべたままで言いました。「お前はよくゴーストゲートに出入りしていたようだな。レッドラン家の手の者か?」 「知らなかったのか?」バージェスは自嘲気味に笑い出しました。「何家の者でもないさ。あんたの義理の妹、ウェイレスト女王に情報を送っていたんだよ。ずっと女王に雇われてたんだ。おお、アカトシュ、王子は俺がどっかのいまいましいダークエルフのスパイだと思って毒を盛ったのか?」 「半分当たりだ」と、王子は答えました。「私はお前が誰のスパイか知らなかっただけじゃなく、お前がスパイかどうかも知らなかったよ。それに、私がお前に毒を盛ったというのも間違いだ。お前は自分で、その毒入りのスープを飲んだんだからな」 バージェスの死に様については、邪悪な支配者様、ここには書かないことにします。あなた様は何年も何年も、長い長い時を生きて、様々なものを見てこられたでしょう。しかし、絶対にあんな死に様は見たくも、話を聞きたくもないことと思います。私自身、彼の断末魔の苦しみ様を記憶から消してしまいたいと思っているのです。 相談役の晩餐会は、その後すぐ解散になりました。私がスパイであることを、ヘルセス王子が知っていたのか、または疑っていたのかどうか、私にはわかりません。あの、昨夜の晩餐に集まった者の中で、私と同じようにもう少しでバージェスより先に解毒剤に手を伸ばすところだった者が、何人ぐらいいるのかもわかりません。ただわかっているのは、もし王子が今のところ私を疑っていなかったとしても、そのうち疑うようになるだろうということです。私は、王子が昔ウェイレストで身に付けたこういった遊戯を、これからも勝ち抜いてゆく自信がありません。どうか、邪悪なる闇の支配者ダウネイン様、お願いします、あなた様のお力で、忠実な部下である私をこの任務からはずすよう、ドレス家にかけあっていただきたいのです。 **** 出版者注: 当然のことであるが、この手紙の差出人の名は、原本から複製されたどの印刷物にも一切記載されていません。 紫1 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/56.html
東方地域についての客観的考察 また、数百年にわたるこの二州の占領を正当とする理由は倫理的にも法的にも疑わしいのだが、このさいそのことには目をつぶるとして、モロウウィンドとブラック・マーシュから経済的または軍事的にどのような利点が得られるのか考えてみたい。 実際のところ、これらの州において帝都より独占権を与えられている一握りの者たちは、財産や資源を好きなだけ利用して富を得ている。が、帝都全体としては潤っているのだろうか。帝都のばかでかい官僚機構の維持費は税収だけでは到底まかなえない。しかも、これらの属州の辺境にある帝都軍要塞の建設や管理にかかる費用は、東方から軍事的な脅威が迫っているという確証があってこそ有益に使われていると言えるものだが、そうした証拠はひとつもない。モロウウィンドやブラック・マーシュの軍隊が帝都の安全を脅かしたことはないのだ。もちろん、シロディールそのものが襲われたことなどあるはずもない。 実際のところ、帝都の安全を脅かすおびやかす最大の驚異はぐうたらな軍隊そのものにある。彼らの胃袋は納税者の負担によって満たされている。こうした軍隊の将校は身近な敵がいるわけでも、反対されるわけでもないため、西方に色気をみせることもありうる。彼らには忠実なる古参兵の軍隊もついているし、ひとり勝ち状態の商人の後援により財源も潤っている。皇位継承の先行きが不透明な中、彼らは思いもよらぬ政治的要因となってくる。 モロウウィンドとブラック・マーシュの占領が理想を追い求めた結果であったなら、帝都の重圧にもいくらかは耐えられたかもしれない。だが、帝都のなんと恥さらしなことか。モロウウィンドで暗黙のうちに実践されている奴隷制度を見て見ぬ振りをし、ダークエルフの領主から哀れなカジートとアルゴニアンの奴隷を救うために軍を出動させるのではなく、無防備な奴隷施設を防衛するために予算をさいているのだ。モロウウィンドの黒檀鉱山では、帝都の勅許のもとで私腹を肥やした者たちが奴隷を酷使して、賄賂と汚職によって保証された法外な利益を収穫しているのである。 東方地域に平和と啓蒙をもたらすというわが国の命題のなんと傲慢なことか。実施にしているのは、これまで驚異ですらあったことのない土地に派兵し、モロウウィンドとブラック・マーシュで実践されていた蔑むべき忌まわしい制度をいいように利用しただけのことにすぎない。その結果、皇室にへつらうものたちだけが豊かになっていった。 客観的に考察してみると、わが国の東方占領政策は道徳的には堕落し、軍事的には無防備で、経済的には破綻しており、導かれる結論はひとつしかない。東方部隊を解散し、帝都の官僚や豪商を東方から引き揚げさせ、このいにしえの土地に暮らす民の手に自由を与えることだ。いやしくも西方文化の失われつつある理想や財産を守ろうとするなら、そうすることでしか道は開けないのではなかろうか。 白1 社会